訃報

俺がプロレスにはまってた頃は、馳浩がまだ黒パンツで頑張ってたころだった。
渋い技で、おお、と素人の俺をも唸らせる展開が主だったころだ。ジャイアントスイングよりも、地味な関節技のほうが光っていたような記憶がある。
この時馳浩は、佐々木健介とタッグを組み、健介をフォローしつつもぶいぶい言わせていた。
しばらくして、馳が臨死体験してライトイエローのパンツに変わり、佐々木健介が独り立ちのための一環としてパワーウォーリアーとしてリングに上がり始めた頃までは、真剣にプロレスを見ていた。
ちょうどそのときだっただろうか。
少し前だっただろうか。
記憶が定かではないが、猪木の命名闘魂三銃士、というトリオが生まれた。
蝶野正洋選手、武藤敬司選手、橋本真也選手の三人で、彼らは確かに光っていた。
俺の印象でいえば、オールラウンダーの蝶野、テクニシャンの武藤、パワーの橋本というかんじで、キャラクターも重ならず実力もあり、見ごたえがあった選手達だ。
実力も一級品で、このときが一番輝いていたのではないか、と愚考している。
当時として好きな選手は蝶野で、次に橋本、最後に武藤だった。グレートムタは、まぁ、別格になるのでおいておくとして……
その橋本選手が今日の午前、脳幹出血で急逝した。享年40歳だそうである。
ヴァーリトゥードやらなにやらが流行り出し、その流れを受けてか、俺の興味は次第に興行の格闘から武道、武術へと移っていった。
そのため、プロレスはもう長いこと見ていない。
今ではどんな選手がいるのかももさっぱりだ。知っていることといえば、かろうじて蝶野選手がまだ現役で頑張ってることぐらいである。
それでも、熱かったあの時の記憶は忘れない。
たとえ試合の内容を忘れていても、必死の形相で技を掛け合っていたあの頃の橋本選手は忘れない。
バットをへし折りそうな強烈なローキックと垂直落下式DDTは、薄れる記憶の中でもしっかりと残っている。
橋本真也さん、あのときの熱さを与えてくれてありがとう。
心よりご冥福をお祈りいたします。